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外伝 VSディアクリスタル やっつけ

「待ちなさい、あなたたちの悪行見過ごすわけには行きません!!クリスタルの輝きの前に、成敗してくれる!!」

「あれ、お姉ちゃんこんな人呼んだ?」

「いや、呼んだ記憶ないなぁ」

「うーん、退魔師ってかんじじゃないけど、すごくやる気満々さね。どうする?」

「なんか面倒くさそうだしなぁ。あんまり相手したくないなぁ」

「ふっふっふ、都市伝説。終わらない夏祭りの真犯人達め、私のクリスタルパワーの輝きの前にグウの音も出ないようね」

「だってさ」

「うーん、どうしよう。お腹空いたしなー」

「あー、そういえばもうそんな時間か。ご飯?おやつ?」

「おやつー、甘いのがいいなぁ」

「そうか、それじゃ。飴屋憑神!!」

格好良くポーズを決めるディアクリスタルの背後に飴屋憑神が現れた。
そして。

「は、背後をとられた!?」

驚くディアクリスタルを水飴でさっとコーティングしてしまう。
そのまま喋れなくなった彼女をねりねりと練りあげて、クリスタル色の飴玉をたくさん作り上げてしまった。

「ドウゾ」

差し出された飴玉を、彼女たちは頬張って。

「うーん、おいしい。なんか希望が湧いてくる感じ」

その美味しさに頬をほころばせるのだった。



インスタントな感じに5分で

憑神縁日事変 9

憑神縁日事変  大花火

日比野花火、お社憑き神となった日比野祭里の手によって最初に憑神にされた娘だ。
花火憑き神となった彼女は、祭里の右腕として彼女を守るため彼女の願いを叶えるためという行動理念で行動している。
彼女が打ち上げる花火は、まるで誘蛾灯のように人を引きつける力があるのだ。
その花火は、縁日に遊びに来ていた客たちを加工したもので。
空に煌く花火は、人々の命でもあるのだった。
魂の底まで憑き神となってしまった彼女は、もしかしたらもう人に戻れないのかも知れない。
けれど、それで彼女は満足なのだ。

「いつまでも、お前を守るからね。祭里」

こうやって、愛しい妹の隣にいられるのだから。

「うん、ありがと。大好きだよ」

祭里も頷いて、姉に体重を預けるようにした。
手に持ったイカ焼きをかじって。
その幸せを噛み締めるように微笑む。

「おいしい?」

花火の問に、祭里はうんと頷いた。
よかった、そう花火は笑って自らも昼食を取ることにする。
人でなくなった彼女は、もはや通常の意味での食事を必要としてはいない。
通常の食事をとるのは、嗜好品としての意味合いしかないのだ。
しかし憑き神たちは食事をする。
もちろん普通のものではない。
現に昼食と言って彼女が取り出した、いや連れてきたのは祭りに遊びに来ていた母娘連れだ。
人を操るすべに長けた花火にとって、縁日内の人を自在に動かすなど造作もない事なのだ。
二人は、きょとんとした様子で彼女の前に立っていた。
なぜここにいるのだろう、といった様子だ。

「こんにちは」

花火はにこやかに挨拶した。

「こんにちは!!」

「あら、これはどうも」

二人は、それに答えるように挨拶を返す。

「お祭り、楽しんでくれてる?」

その問に、二人は顔を見合わせて頷いた。

「うん、すっごい楽しいよ!!」

少女の元気な返事に花火は表情をほころばせて手招きした。

「そう、よかった」

呼ばれるままに彼女のもとへやってきた少女をひょいと抱き上げると。
母親の目の前で少女を折りたたむように丸めはじめたのだ。
サバ折りになるようにくの字の曲がったかと思うと肩や足をきれいに揃えてその形を球体へと変えていく。
まるで粘土細工のように姿を変えた少女は、母親の目の前で人の面影を残した歪な球体へと姿を変えた。

「いったっだきまーす」

そして、口を大きく開けると丸く加工した少女を一飲みにしてしまったのだった。
ごくんと飲み下せば、そこにはもはや先ほどの少女の影も形もない。
目の前でそれを見つめていた母親は。

「あら?」

と首をかしげた。

「どうかしたんですか?」

花火の問に、母親はうーんと唸って答える。

「私ったら、いつの間に縁日に来ていたんでしょう?もういい年なのに」

「たまには楽しむのもいいと思いますよ?」

そう言って微笑みながら近づいた彼女は、娘と同じように母親も丸く加工していく。

「んーでも、今はいいかな?」

きょとんとした表情のまま球体となった母親の前で小さく首をかしげた。
そしてそのまま、まるでおにぎりでも握るかのように両手に力を込めてぎゅっぎゅっと握っていく。
みるみるその球体は小さくなっていき、手のひらにすっぽりと納まるようなサイズになってしまう。
彼女はそれを腰のベルトから下がる小さな皮のベルトに入れると、美味しそうにイカ焼きを頬張る祭里に向き直った。
祭里はイカ焼きをかじりながら、呆れ混じりに彼女の腰を指さした。
ズボンに巻かれたベルトからぶら下がる、たくさんの小さなベルト。
そのひとつひとつに、加工された人々がぶら下がっているのだ。

「お姉ちゃん食べ過ぎだよー。ふとるよー」

祭里の指摘に、彼女はエヘヘと頬をかいた。

「うーん、でもお腹すいちゃうんだよねぇ」

言うやいなや、ベルトの一つから取り出した球体をポイっと口の放りこむ。

「うーん、おいしい」

うっとりした表情で言う彼女に、祭里は呆れてイカ焼きをかじるのだった。


憑き神は、人を喰う。
頭からバリバリというスプラッター的な食べ方ではない。
人を、その魂を自らの魔力によって犯し、食らうのだ。
言ってしまえばそれは、人としてのあり方を侵略するということ。
食われた人間は憑き神の一部となり、新たな憑き神となってしまう。
故に彼らはこの世に存在してはならないものとして狙われるのだ。


いつものように花火と手をつないで縁日を回っていた祭里は、ふとした違和感に気がついた。
いつもよりも、花火の体が熱っぽかったのだ。
不思議に思ってその顔を覗き込んでみれば、どことなく火照っているように見える。

「お姉ちゃん、風邪?」

心配そうな祭里の言葉に、花火はうーんと首をかしげる。

「なんだろ、少し。体がだるいかな」

どことなくポーッとした様子でそう返す。
その様子は確かに風邪のようではある。
しかし、憑き神が風邪をひくのだろうか。

「きっと、すぐ治るよ」

そういった直後だ、ふらっと足がもつれたように彼女は倒れてしまう。

「お姉ちゃん!!」

悲鳴を上げて寄り添う彼女のもとに浴衣が訪れ、即興でたんかを創り上げて本殿に運んだのはすぐのことだ。
布団に寝かせて、隣でオロオロするばかりの祭里に様子を見終えた浴衣が告げた。

「別に心配はないさね」

その一言にほっと胸を撫で下ろした祭里は、浴衣に尋ねる。

「風邪ですか?」

「いいや、憑き神が風邪を引いただなんて話は古今東西聞いたことがないさね」

「じゃあ、いったい……」

答える前に浴衣は花火の隣りに座った。
そして目を覚ましていた花火に尋ねる。

「花火、あんたどれくらい人を喰った?」

花火は、ウーン?と首をかしげた。

「食ったパンの数なんて覚えてないって顔だね?」

その指摘に、花火は照れくさそうに頬をかいた。

「まったく、あんたいつ見ても食ってるようにしか見えんかったけど。たぶんもう百や二百を軽く超えるくらいは食ったに違いない」

花火は、頷いた。

「そして聞くけど。あんた子供居たっけ?」

その質問には、姉妹ふたりとも顔を真赤にして。

「いません!!」

「何を恥ずかしがっているさね?子供って言っても子憑き神ことさ」

そう言うと、彼女の方の上に小さな織物憑き神が現れる。
憑き神に魔力で侵された人間の魂、憑き神の眷属と化してしまった元人間だ。
仲間を増やすという考えが根本にある憑き神は、食うことによって仲間を増やす。
子憑き神は不思議そうな顔で周囲を見回して、カラカラと布を吐いた。

「ああ、別に手伝って欲しいわけじゃないさね。遊んでおいで」

それを優しく止めると、子憑き神はふよふよとどこかへ飛んでいった。
この縁日の中には、多くの憑き神が産み出した子憑き神たちが遊びまわっているのだ。
魔力をたっぷりと吸い上げた子憑き神はやがて一体の憑き神となる。
言うなればそれは、己の魔力を分け与えた分身に等しい。

「子憑き神は、いわば分身。増えすぎた魔力が溢れ出してできるものさね」

でも、と浴衣は続けた。

「あんたは、子憑き神を作らなかった。どうやら、かなりキャパシティが大きいのか。あるいは作る間もないほどに魔力を蓄え続けたのか。どっちかはわからんさね。けど、それが限界にきた。魔力が花火という器にいっぱいになってしまったのさ」

「それじゃ、子憑き神を作れば!!」

目を輝かせて、祭里が尋ねる。

「まあ、そうなんだが。今回ばかりはそうもいかないさね。余剰になっている魔力が大きすぎる。こうなってしまうと、子憑き神の体には納まり切らないさ」

「じゃあどうするの?」

「どうにかしようと、花火の体がしているのさ。魔力に耐えうるより強靭な体を作ろうとしている。うーん、進化と言っていいのか……初めてさね、こんなのを見るのは」

浴衣の長い人生のなかでもこんな症状を見るのは初めてだった。
しかし、同じ憑き神であるからかどうすればいいのかは何となく分かる。
おそらくは、経験も大きいのだろうが。

「脱皮、と言うべきか?ともかく、花火は生まれ変わろうとしているのさ」

「それじゃ、お姉ちゃんはすぐに良くなるの?」

浴衣はまたしてもううんと首をかしげた。

「いや、それだけじゃダメさね。今の体に、花火憑き神という存在に蓄えられた魔力を形と共に脱がなければならない。そのための、依代が必要さ」

依代、つまりは子憑き神のように魔力を流し込むための魂が必要だと浴衣は教えた。

「お客さんじゃダメなの?」

「キャパシティが足りないさね。もはやこれは並の人間一人でまかないきれるものじゃない」

「退魔士さんは?」

祭里はすでに数人と言わない人数の退魔師を飲み込んでいた。
花火と浴衣という強力無比な力を持つ憑き神を従える彼女にとって、退魔師は客とたいして変わらないように思えていたのだ。

「うーん、退魔師のほうがキャパシティはでかいけど……かといってこれを飲み込めるほどのキャパシティを持つ退魔師なんて呼んだらこっちが危ないさね」

「そっかぁ、それじゃたくさんお客さんを纏めて……」

「100人でもきかないってレベルさね……待てよ……」

祭里の無邪気な言葉に反論してから、ふと思い出したように額に指を当てる浴衣。

「いたさね、適任が」

そうして不敵に笑い。

「花火、のるかい?」

花火にそう尋ねた。

「強くなれるんでしょ、もっと、もっと祭里を守れるんでしょ」

彼女は、強く頷いた。


「そういえばさ、なんで私は子憑き神いないのに大丈夫なの?」

「いるじゃないか、たくさん」

浴衣はそう言って、自分や花火そして縁日を賑わわせている憑き神たちを指さした。

「みんな、あんたの子供さね。母上」

「うわ、私ったら子だくさん」

祭里はどこか恥ずかしげに体をくねらせた。


退魔師にも世襲はある。
先祖代々退魔師であるという家系は、そう珍しいものではない。
大抵の場合、そういった家には何かしらが伝えられていることが多い。
例えばそれはあらゆる憑き神を両断する宝具であったり、あるいは術の系統であったりだ。
九条家もまた、古くから退魔師を行って来た家系だ。
表の顔は、財界と縁の深い上流階級であり退魔師としても優秀な人材を輩出してきた由緒正しい家である。
九条の退魔師が得意とするのは、集団戦術。
それに特化した術系統をもっており、九条の退魔師はそのために特別に訓練された従者を引き連れているのだ。
九条火凛、現当主の長女ですでに優れた成績、戦果を残している。
次代の当主と実しやかに囁かれている娘だ。
自らを上流階級と定義し、その責務を果たすための矜持を持っている。

「人々に仇なす憑き神、許しませんわよ」

相対した憑き神に向かってそう言うと、臆することなく一歩一歩と近づいていく。
しかし、憑き神は身動きひとつ取ろうとしない。
いや、とることができないでいた。
憑き神の周囲を、彼女の部下である侍女服をまとった娘たちが取り囲んでいたのだ。
手をかざし、印を結ぶ姿は退魔師とそう変わるものでない。
彼女たちこそ、九条家が誇る退魔の侍女部隊だ。
一人ひとりの力は早退したものでもないが、組み合わさることによって巨大な憑き神すらも仕留めることができる。
そして、彼女たちの動きにより火凛は己の力を最大限に発揮することができるのだ。

「あなたの罪を償いなさい」

火凛が両手を合わせる、ぶつかり合った手と手から火花が散って、数度叩けばまばゆいばかりの閃光になった。
それはやがて巨大な火球になり、憑き神へと向けられる。
絶対的な破壊力を持つ九条の火球、それを受けた憑き神は、消滅する他になかった。
絶大な破壊力と引換に小回りの効かない術式を扱うため、侍女たちの力が必要になるのだ。
跡形もなく消滅した憑き神に背を向けて、彼女たちは歩き出した。

「お嬢様、どうぞ」

差し出されたタオルを受け取って汗を拭う。
大変な仕事ではあるが苦ではない。
こうやって仇なす存在を一つづつ確実に取り除くことが人々の平和になるのなら。
それはむしろ、楽しい仕事であるとすら言えた。

「お嬢様、準備はできております」

侍女がそう言って、車の扉を開いた。
誘われるように乗り込む。
彼女は学業もおろそかにしないのだ。
いわゆる縦ロール、竜巻のように渦を巻く2つの塔のような髪が、彼女の外見の最も大きな特徴だろう。
黄金の輝きを持つそれは、人々の視線を惹きつけて止まない。
風に流されるだけでまるで金粉が舞い上がったかのような錯覚を受けるそのかみもさることながら、それに目を引きつけられたものは次に、その完成された肢体に目を奪われる。
女性として理想をかき集めたらできるような、美しさ。
豊満と言っていい肉付きながら、決して品位を崩さない丹精さ。
視線には力が込められていて、彼女が只の娘ではないこと教えている。
力強い目に注意が行きがちではあるがしかしその顔もまた美しいと言えるものだった。
学校中の妬みと羨望を一身に受けるが、それもまた上流階級の責務であるとして彼女は真摯に受止めている。

「……」

車に揺られてしばらく外の景色を眺めていた彼女は、ふと気づいたものに目を細めた。

「このような朝方から……珍しい」

車を停めるように指示すると降りて、空を眺める。

「惑わしの呼び声……この街で人々を誘惑しようとは、不届きな」

機嫌を悪くした彼女は、胸元から一枚の札を出した。
小さく呪を唱えると周囲に光が満ちる。

「朝早くから申し訳ありません、みなさん」

光が消えると、そこには彼女を中心にしてたくさんの侍女が並んでいた。

「問題ありません、お嬢様。いつでも準備はできております」

「それでこそ九条の侍女。よろしい、では参りましょう」

多くの侍女を引き連れて、彼女は自ら敵の懐へと踏み込んでいく。
おそれも迷いもない、ただ心配なのは。

「授業に、遅れければ良いのですが」


「はぁ、はぁ……」

息が切れる。
ぜーぜーと品位のない呼吸をして、彼女は上を見上げた。
ずっと見上げるほどに巨大な影が、彼女を見下ろしていた。

「くっ!?」

足が竦み、腰が震える。
立とうと思ってしかしまともに立つことすら出来ず、彼女は腰砕けに尻を打ち付けた。
そこに、影が手を伸ばしてくる。
思わず、小さく悲鳴を上げて両手で自分を庇おうとする。
そんなことでは、防げないと知っているくせに。

「お嬢様を守れ!!」

周囲に散らばっていた侍女たちが、彼女を守ろうと集まる。
小さな霊力をかき集めて練り上げ呪文を組み上げる。

「四象八卦に陣を、こんどこそ奴を捉えるんだ!!」

捕縛のための呪文式が発動、それを扱うための適切な位置へと移動する。
独特の歩法でもって散開し死角へ死角へと移動しながら相手を取り囲もうとする技術は今までどの憑き神に見ぬかれたこともなかった必殺の技。
2つの瞳では消して追いきれぬ魔性の技を、しかしその影は見ぬく。

「ダメです、やめなさい!!」

球体を組み合わせて作ったようなその憑き神は頭部にある目だけではなく、全身を構成する球体が独特の視覚を持っていたのだ。
笑みの張り付いた球体が、回る。
ぐるりと周囲を見回して、周囲に散開した侍女たちをくまなく捉える。
百を超える瞳から、逃れるすべなどあるはずもない。

「死角が、ないのです!!」

けれど、彼女を守るために命を捨てる覚悟の侍女たちは止まらない。
決死の覚悟で、術を遂行しようとする。

「やめてぇぇぇぇ!!」

光が満ち、彼女は悲鳴を上げた。
視界を奪い去る一瞬のその閃光に、彼女は思わず目を閉じる。
やがてやんだ閃光に、目を開けて顔を上げる。
願わくば、術が成功していてくれと思いながら。
目の前は煙で満ちていて、その奥を見通せそうもない。

「誰か、報告を!!お願い、帰ってきて!!」

声を張り上げる。
だれか、返事をしてくれ。
お願いだから。
しかし、彼女の願いはかなわない、いやある意味かなったのか。
煙の間を縫うように、何かがコロコロと転がってくる。
一つではない、二つ、三つそれ以上だ。
コロコロと転がってきたそれは、彼女にぶつかって動きを止めると、次々にぶつかってそこに溜まっていった。

「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁ……」

悲鳴のような声が漏れた。
彼女の周囲に転がる大きな球体。
そのどれもが、彼女が見たことがあるような模様をしていて、そのどれもが、彼女が知っている人物の顔をしていたのだ。
物言わぬ塊となって、彼女たちは帰ってきた。
打ちひしがれ、うなだれる彼女に覆いかぶさるように、巨大な影が姿を表す。
ひ、と小さく声を上げて上を見上げる。
高みから見下ろすその表情は、にやにやと笑っているように見えた。

「モウ終ワリ?」

降ってくるのは、どこか悩ましげな熱っぽい声。
そして、彼女をつかもうと巨大な手が伸びてくる。
再び悲鳴を上げて、両手で自らを庇おうとして……
それでいいのか、と誰かが言った。
おそらくそれは、彼女以外の誰にも聞こえない声なのだけれど。
九条の名が、彼女の背中に立っていた。
かつてより魔を討ち、人々の先頭に立ってきた九条家の名が、彼女を支えていた。

『また、無様な真似をしようというのか?』

先ほどのような。
と、誰かは言う。

「そんなはずが、ないですわ」

声は震えていた。
しかし、しっかりと芯のある声だ。
信念を持った声だ。
震える足を叱咤して、怯える腰を激励して、彼女はゆっくりと立ち上がる。
そして、声を振り切るように声を上げる。

「私は、九条火凛!!九条家当主朱銀が長女!!」

勝鬨を上げるようなその声に、彼女の震えは止まっていた。
彼女の中で声を挙げていた、九条の血が燃え上がる。
全身を真っ赤なオーラが覆った、揺らぐ炎のようなオーラ。
それは、炎を扱う九条家独特の術式開放の証。
髪にも黄金の輝きが戻ってくる。
両手から炎が吹き上がり、彼女の体を覆った。

「憑き神などに、屈しはしません!!」

吹き上がる炎を練り上げ、巨大な火の玉へと。
ありったけの霊力をつぎ込み、小さな太陽を作りあげんとした。

「くらえぇぇぇぇぇぇ!!」

それを、放り投げる。
ゆっくりと全てを消しとばす力の塊が、空気を、空間を焼き尽くしながら憑き神へと迫った。

「はぁ、はぁ……罪を、償いなさい!!」

彼女見る前でゆっくりと敵までたどり着いた火球は、弾けるように光と炎をまき散らした。
そして、暗転。
音と光と衝撃が彼女の五感を奪い去ったのだ。
けれど、彼女はもう恐れない。
九条の名を背負っている限り。


「なぜ、ですの?」

疑問の声を上げる。
答えるものは何も無い。
ただそこには、自由のきかないからだと、目の前で笑う憑き神の顔があるだけだ。
わかりきって居たはずなのに。
なぜ、九条が部隊を持つのかを。
悔しがっても、もう遅い。
がっちりと捕まれてしまった彼女の体にはもはやそこから逃れるほどの力もないのだ。

「殺すなら、殺しなさい」

せめて最後は九条らしく。
彼女はキッと、憑き神を睨みつけた。
しかし憑き神は、とんでもない。
と笑う。
知らぬわけではない。
知らぬはずがない、憑き神に敗れたものの末路を。
魂まで、その有り様まで犯し尽くされるその屈辱を。
ならば、と彼女は舌をかもうとした。
恥辱を受けるくらいならば、自らの命を絶つ。
九条のものらしい考え方だ。
しかし、あろうことか彼女の体はもはや動かなかった。
もはや逃れることもできないのだ。

(止めなさい、私にふれないで!!)

請い願うことしかできない。
けれど、それに頷く憑き神であるはずもない。
体がくの字に折り曲げられた、そのままくるくると足を巻くように、それに腕を沿わせるように、自慢の髪もしなやかさを失ってその中に飲まれた。
彼女の体は人体構造を無視して加工されていく。
痛みもない、違和感もない。
言葉を発することはできないが、意識は不思議と明朗としていた。
やがて出来上がるのは、歪な球体だ。
凛とした表情のままそうなってしまった火凛の姿はどこか滑稽だ。

(死にたい、殺して!!)

人ですらなくなってしまった彼女は、せめてこの身が守るべき人々に危害を加える前に滅びたかった。
しかし、しかしだ、彼女は今やただの物体。
侍女たちの球体に紛れて転がる球体の一つにすぎないのだ。


球体となった彼女たちの傍らで、花火憑き神はその体を横たえた。
巨大だった体はある程度小さくなっている。
体を横たえた、とはいっても横たえたのは打ち上げ用の筒になっている下半身だ。
そうやって横になった状態で、彼女は近くの侍女玉を持ち上げると、自らの下半身、底に開いた穴にあてがった。
その穴の大きさは丁度侍女玉と同じくらいだ。
力を込め、やや侍女玉の形を変えながらその穴で飲み込んでいく。

「うっ……くぁ……大きい」

顔を真赤に染めたそのさまは、性感にあえいでいるようにも見えてひどく艶かしい。
やっとの思いで一つを飲み込んだ彼女は、体を熱く染め上げて残された球体を見つめた。

「んっ、はぁ……すごい、熱くて……」

ひとつ飲み込むたびに。

「っっっァ……もう、奥まではいっちゃった」

貫かんばかりの快感が彼女の体を駆け抜ける。
喘ぎ、涎を始めとした体液を垂れ流しながら、彼女は侍女玉をすべて飲みきった。

「ぁ……最後……」

その手が、火凛玉に伸びる。


火凛は、見ていた。
動くこともしゃべることもかなわない状態の中、その光景を。
彼女が愛し、彼女を愛した侍女たち。
いわばそれは自身の体の延長ですらあった仲間たちが、飲み込まれていくさまを。
何を言っても届かぬ思いではある。
しかし、それでも思わずにはいられない。
やめて、と。
もちろんその思いの届かぬまま、彼女以外のみなは全て飲み込まれてしまった。

『サアお嬢様、準備はデキテイマスよ』

しかし、彼女の悪夢は底で終わらない。

『お嬢様』

『アア愛シイお嬢様』

聞き覚えのある声が、彼女を呼ぶ。
見れば、憑き神の下半身。
筒状となったそこに、侍女たちの顔が浮かび上がっていたのだ。
誰もが淫蕩に顔を歪ませ、淫靡に彼女を誘う。

『サア』

『コチラヘ』

彼女を、呼ぶ。
もし足があれば逃げ去っていたかもしれない。
そんな分身たちを見たくはないと。
けれど、もはや動くこともかなわぬその体、とどまっていればどうなるかはもちろん知っていた。
ひょい、掴み上げられ体が浮く。
気づけば彼女は、憑き神の腕に抱かれていた。
まるで愛しい物を抱くかのように、優しく。

「あは、あなたが、私の子になるのね」

そういって、優しく彼女にキスをする。
不純で、不潔だ。
けれど何故だろう、その瞬間嬉しいと思ってしまったのは。
回答は出ないまま、彼女はゆっくりと憑き神の底からその中へと飲み込まれていったのだった。


「その後はどうさね」

本殿の近くで横になっていた花火に、浴衣が声を駆けた。

「ふふ、順調みたい」

うれしそうに、腹を撫でながら答える。
その腹は、異常なほどにふくれあがっていた。

「皆げんきだよ」

大人一人がゆうに入るのではないかというその腹を覆う服を、浴衣がペラリとめくり上げる。
そこには、たくさんの女性の顔が浮かび上がっていた。
言うまでもなく、火凛とその次女だ。
誰も彼もが幸せそうに、淫靡に蕩けた表情をしている。

「でしょ?」

彼女の問に、火凛が答えた。

「はいぃぃ♥お母様の中が気持ちよくて、火凛とろけてしまっておりますぅぅぅ♥」

そう言った途端、火凛の周囲に存在している侍女の顔が消えた。

「んはぁ♥また一人、火凛になりましたぁ♥」

蕩ける火凛を、花火は優しく撫でた。

「この顔が皆消えたら、誕生ね」

服をもどした浴衣はその横に腰掛けた。

「そうさね、その時にはまた着物を作らないと」

「よろしく」

答えて、周囲を見回す。

「祭里は?」

「子供が生まれるのにあわせてケーキ出店を呼ぶんだって言って、いつぞやの出店カタログとにらめっこしているさね」

「あるかなぁ?」

「さあ?」

二人は、顔を見合わせて笑った。


それから数日が立った。
彼女の腹に浮かぶ顔は、火凛一人になっている。

「ああ、火凛。もうすぐ会えるね」

腹をなで、微笑む。
祭里もまたその横で興味津々といった様子で火凛を眺めた。

「ケーキ出店なかったよー。ワッフルでいい?」

「ふふ、もちろんですわ祭里様。お母様ともども、頂きます」

「よかったぁ、いつでも食べれるからね!!」

喜んだ祭里の前で、すぅと火凛の顔が消えた。

「いよいよさね」

花火憑き神となった彼女の後ろについて本殿を出る。
花火憑き神は体を構成する花火の数を増やし、巨大体に姿を変えた。
そして、本殿にしなだれかかるように下半身の打ち上げ筒を空へと向ける。
その瞬間、彼女の体が光りに包まれ始めた。

「いっくよー!!」

気合を入れた声。
そして、爆発音。
大きな破裂音を伴って、空高くへ光り輝く花火が登る。
それはまるで天へと橋をかけるような、そんな光景で。
そして、天を覆わんばかりの花火が夜空を彩った。
美しさと雄大さに、誰も彼もが言葉を失う。
そして花火が散ると同時、空からゆっくりと光の玉が降りてきた。
それは、光の塊となっていた花火憑き神のとなりへと降り立って。
そして二つの光は同時に消える。
そこに立っていたのは、下半身の大筒の周囲にたくさんの小型の筒をつけ、手にも小型の打ち上げ筒を三つ指のように備え、頭にも新たな打ち上げ筒を手に入れた、花火憑き神。
いや、大花火憑き神だ。
肩や頭の打ち上げ筒からは、玉簾のように小型の花火が連なっている。
そしてその横にいるのは、前までの花火憑き神を書き写したかのような憑神の姿。
変わっているのは、頭の打ち上げ筒が大きくなり頭の横に、まるで縦ロールのようにくっついていること。
それと、顔立ち。
その顔は確かに、九条火凛のものだ。
いや、それだけではない。
彼女の体を構成している花火が、まるで侍女のような色合いをしている。
そう、彼女いや彼女たちこそ、子花火憑き神なのだ。

二人は揃って祭里に一礼した。
それから向き合って。

「火凛!!」

「お母様!!」

抱きあう。
子花火憑き神の体となっている侍女玉、いや次女玉たちも、声を上げた。

「「「「「「お母様!!」」」」」」

「うん、お前たちも。元気でよかったよ」

少しだけ涙ぐむようにして、彼女はその新たなる生命を歓迎した。
次々に周囲にいた憑き神たちがお祝いの言葉を口にする。

「おめでとう、おめでとう!!」

お社憑神も。

「よかったさね」

浴衣憑き神夫婦も。
他の、縁日を構成する憑き神たちも。
誰もが口をそろえて、その誕生を祝った。


それから、ワイワイとした祭りに戻る。
しかしそこかしこから聞こえてくる話題の中心は、花火たちだ。
祭里は二人の花火憑き神と手をつないで祭りを回っていた。
二人の姉ができたようで、とても嬉しそうだ。

「えへへー。火凛お姉ちゃん」

と笑みをこぼしながら火凛を見上げた彼女は、ふと表情を険しくして足を止めた。

「どうなさいました、祭里様?」

それを不審に思ったか、火凛が足を止めて祭里に尋ねる。

「ねえ、火凛お姉ちゃんは。私のお姉ちゃんだよね?」

「花火母上の分身なので、そうなりますわね」

「でも、お姉ちゃんの子供だよね?」

「母上は、母上ですから」

「……お姉ちゃん。お姉ちゃんは、私の子供だよね?」

「ここの憑き神の母っていう意味ならそうだね」

「てことは……私、火凛お姉ちゃんのおばあちゃんじゃない!!うわー、もうおばあちゃんになっちゃった!!」

大変だー、と慌てる祭里に、二人は顔を見合わせて笑った。




「ところで母上、母乳を所望致しますわ」

「へ?」

「母乳です。母上の生命の泉で生まれたばかりの私の喉を潤して欲しいのです」

「へ?いや、あの」

「ふむ。出が悪いのですか?でしたら搾って差し上げますわ」

「ちょ、やめっ!!」

なんていう一幕があったとか、なかったとか。




花火パワーアップの巻
なんでエロいかって言うとエッチなのが好きだから

憑神縁日事変 8.5

憑神縁日事変 金太郎飴

一閃。
銀の光がきらめいて一直線の軌跡を描く。
それは、すべてを切り裂く斬撃の線だ。

「ォォォォォォ」

空気の抜けるような、恨み言に聞こえるような、そんな言葉を吐きながら上下に分断されたタクシー憑き神は煙のように消滅した。

「他愛もない」

カチンと音を立てて刀を鞘にしまったのは、改造された和服を身にまとった女性だ。
大人とも子供ともつかない微妙な年頃で、端正な顔立ちをしている。
背は高く、スラっとしていてシルエットだけ見れば男のようでもあるが豊満な胸や尻がそれを否定していた。
長い髪をポニーテールにまとめた彼女は、さっと踵を返すとその場をあとにする。
そこには何も無い、静寂だけが残された。



「都市伝説?」

退魔師である彼女、一文字菊水はそう聞きかえした。
その情報を彼女にもたらしたのは、退魔師に対して情報を売ること生業をにしているものだ。
噂から、正確な情報まで、妖しいと思われる情報を方々から仕入れ、彼女たちに伝える。
そういった者たちだ。
そんな彼がこの度彼女に持ってきたのは、噂に近い情報だ。

「はい、人が帰ってこない祭りの噂。きいたことないですか?」

聞くところによると、本来ありもしないところで祭りが行われていて底に行ったものは帰ってこない。
そんな噂が、ほんとうにひっそりとではあるが流れているらしい。
知る人ぞ知る都市伝説といった具合だ。
現代に残る怪異、憑き神たちが起こす事件はその特性から表面に現れにくく、それでも違和感を察知した少数の者たちから実しやかに囁かれ、都市伝説となっていくことが多い。
もちろん大抵の場合は根も葉もない噂であることが多く調査をしたところで徒労になることが多いのだが。
彼女はふむ、と頷いた。

「けが人が出たとかいう話は?」

「ないですね、なんせ。出てこれらないらしいので」

「入っていった者たちが残した噂ではないというわけか」

「はい」

憑き神達は、被害者に関する記憶を失わせる。
まるでいなかったのように、誰の記憶からも消えてしまうのだ。
憑き神たちが関わる都市伝説の多くは、特定の被害者の名前を出さない。
例えば四丁目の〇〇さんが、ということはないのだ。
そういう面で見れば、たしかにこの都市伝説は事件のようではあるが。

「わかった、ありがとう」

彼女はうなずき、報酬を渡した。
そして腰に下げた二本の剣をチャリとならし、ビルの合間に消えていく。


都市伝説となる憑き神の多くは、強大ではない。
事件を隠蔽し切ることのできない未熟な憑神が都市伝説となるのだ。
しかしながら、強大な力を持たないがゆえに退魔師たちの網にかかりにくくもある。
退魔組織は、無駄な出費になることを恐れて大抵の場合そういった事例に口をだそうとしない。
そのため、彼女のようなフリーの退魔師が必要になるのだった。
組織縛られることなく、軽い足取りで様々な調査に当たることができる。
当たり外れはあれども、あたった場合はしっかりと報酬をもらえるのだ。
実力は個人によってまちまちではあるが、菊水はB級程度の実力があると言われていた。
自身を隠す力もない程度の憑神であれば、大抵の場合倒すことができる。
先祖代々フリーの退魔師を続けてきた一文字一族に代々伝わる二本の刀。
はるか昔、名のある退魔師が鍛え上げたという霊刀は、彼女の力を吸い上げて対する憑神を両断する。
人を切ることができない出来損ないの刃ではあるが、しかし、それに切り裂くことのできない憑き神はいないのだ。
その刀を扱うことができるが故に、彼女たち一族は退魔師をしていたと言っても過言ではない。
逆に言えば、彼女たち一族はそれしかできないのだ。
他の退魔の家系に比べれば、芸の少ない一点特化の能力。
それ故に、正式な退魔師になることもなくフリーという地位に甘んじていたのだ。
先祖はそれでよかったと思っていたのかもしれない。
けれど彼女は、自分の力を認めて欲しいと思っていた。
聞けば、彼女と同じくらいの年齢で組織に認められているものもいるという。
彼女は、劣っているとは思えなかったのだ。

「だから、証を立てる」

地道に退魔を続けて、認めてもらう。
それが彼女の目標だ。
退魔師を始めてからすでに狩った憑き神は99体。
強いものもいれば弱いものも居た。
一概に評価することは難しいだろう。
けれど、99体というその数は圧倒的だ。
彼女の年齢でそれほどの数をこなした退魔師はそうはいないだろう。
あと一体、100体目の討伐をもって、彼女は退魔組織に正面から入るつもりだった。
これで、誰も私たちを馬鹿に出来ない。
あと一体……
ゴールを目前にした、それ故の油断。
都市伝説となる程度の力しか持たない憑き神という決め付け。
ビルの谷間を歩く彼女は、空に響いた花火を聞きつけるやいなや、口の端を歪めて飛んだのだった。


果たして摩訶不思議なことに、ビルの谷間、音もしない都会の闇の中を飛んでいたはずの彼女は、いつの間にか祭り囃子と明るい提灯の行列に包まれていた。
いっそ耳が痛くなるほどの喧騒が周囲に広がっていて、思わず彼女は立ち止まった。
祭り、祭りだ。

「いつのまに……」

いつの間に祭りの中にいたのか、本当に気がつかなかったのだ。
先手を取られた。
そう思って身構える。
この祭りはまず間違いなく憑神の結界。
それに取り込まれてしまったのは、うかつだった。

「攻撃的なものではない」

そうならすでに何かが起こっているはずだ。
慎重に状況を解析する。
この広い全てが憑神であるのか。
いや、そうではない。
変な感じはしているが、歩き回っている客たちは人間だ。
出店を経営している者たちが、憑き神……
ぞっとした。
ざっと見てその数は100を超える。
まだこちらに気づいてはいないようだが……

「警戒能力は低いのか?」

だとすれば数こそ多いが、そのひとつひとつは大したことがないように思えた。

「慎重にやれば、行けるか?」

そう思った瞬間だ、彼女の背後に突如気配が起き上がった。
人のものではない、魔力をタップリと含んだその気配は。

「憑き神!!」

振り向きざま、彼女は霊刀を抜き放った。
煌く銀線がひとつ、夜の闇を駆け抜ける。
あっけないほどの手応えで、彼女の背後に立った憑き神はまっぷたつになって倒れた。

「弱い……」

思うよりもそれはずっと非力だった。
彼女が今まで戦ってきた中でも、弱いほうだろう。
思わず、口の端が歪む。
振り返ってみれば、この縁日を構成する憑き神の数は100を超えるのではないかというほどだ。
それほどの数、手土産にはちょうどいいだろう。
まずは手近にいる、綿あめ憑神から……

そう思って一歩踏み出したその瞬間。
再び背後で魔力が膨れ上がる。

「なにぃっ!?」

飛び退いて振り返れば、先程まっぷたつにしたはずの憑神が起き上がり、彼女を見ていたのだ。
円筒形を組み合わせて創り上げたようなその憑き神は、きょとんとした表情で彼女を見下ろしている。

「なら、もう一度っ!!」

襲ってこないのなら好都合と、彼女は霊刀を振るう。
両手に持って二度三度、ぐるっとまわって四度五度。
剣戟の嵐のような連続した斬撃に、目の前の憑き神はコイン状にスライスされて散らばった。

「ここまでやれば……」

荒く息を吐きながらその三条を眺める彼女の背後に、再び声がかかる。

「さすがは一文字の剣戟さね。この代になっても衰えは無しか」

振り返れば、憑神が立っていた。
妖艶な着物を身にまとった憑き神は、周囲とは隔絶した力を持っている。

「お前が、親玉か」

刀を向けて尋ねる。
しかし憑き神は笑った。

「いいや、私は只の門番さね。一文字菊水、あんたみたいな不届き者を始末するためのね」

「なぜ私の名前を……」

「思い出す必要はないさね」

疑問を抱いたその瞬間、周囲で再び魔力が盛り上がる。

「またっ!?」

即座に、周囲に剣を向けようとして。

「体が……」

自分の体が、動かないことに気がついた。
よくよく目を細めてみれば、自分の体の至る所に細い、蜘蛛の糸のような糸が絡みついて動きを奪っていたのだ。

「一文字の霊刀、厄介さね。それしかできないから、それに特化しているから。防ぐことすら容易でない宝具だよ。でも、相手が切っても意味が無いのであれば……」

ぎりぎりと糸の圧力が強まった。
体が己の意思に反して勝手に動き、両手に持った霊刀を取り落とす。

「やめ、ろぉ」

懇願のような言葉にも、憑き神は笑みを崩さない。
糸に操られて、彼女は気をつけをするような状態で直立させられた。

「例えば、こいつみたいのが適任さね。なあ、金太郎飴憑き神」

憑神の台詞に、体をまとめ上げて立ち上がった金太郎飴憑き神は首をかしげた。

「頭は、まだあんまりよくないけどね」

そう言って、手を叩く。
それに答えるように金太郎飴憑き神が体をバラした。
そしてバラバラに成ったパーツが、彼女の頭の上と足の下にそれぞれやってきて。

「いいっ!?」

上下からぎりぎりと押しつぶし始めたのだ。
上下から体をつぶされるという恐怖に、彼女は珍妙な声を上げる。
圧力は強まる。

「あ、れ……?」

しかし、不思議なことに痛みはなかった。
体は上下からのプレスで縮み、全体の形がおかしくなっているというのに。
顔をは上を向き潰されて平面のようになっていて、体は押しつぶされて大分太さを増していた。
けれど、横幅は上下の憑神のパーツを超えることなく、彼女の体は円筒状に押しつぶされていってしまったのだ。
やがて短く太い円筒状になった菊水は、もはや何も語ることが出来なくなっていた。
その塊を金太郎飴憑き神は持ち上げて丸呑みにしてしまう。
次の瞬間、金太郎飴憑き神の体がぐーんと伸びた。

「よーし、いい感じさね。さて、菊水飴の部分だけもらおうか」

袋を取り出した憑神がそれを突き出すと、金太郎飴憑き神は頷いて今のびた体のパーツを袋の中に落とした。
それは空中で更にサイズを小さくして一口サイズになった。
小さなコイン状の飴が袋の中にパラパラとおちてくる。
そのひとつひとつには、キリッと凛々しい表情を浮かべる菊水の顔があったのだった。

「さて、祭里に持って行ってあげるかね……うーん、幾つかはもらってもいいか」

そう言って懐からハンカチを取り出すといくつをそれにくるんで懐に入れた。
1つだけ手に持って口に放り込む。

「んー、甘い。いい味さね」

蕩けそうな甘さに微笑んで、彼女は本殿へ向けて歩き出したのだった。




金太郎飴を作る工程は芸術的ですね
相性差がひどいと何もできない菊水さんまじ可愛い

憑神縁日事変 8

響き渡る祭り囃子についうきうきとしてしまうのは世代を問わないようで。

「お祭り、楽しみだね!!」

着替えさせてもらったばかりの浴衣に身を包んだ花奈は、嬉しそうに彼女を見上げた。

「そうね、久しぶりなんだから。いっぱい楽しみましょう」

その二人の後ろでは花奈の姉である千代子が携帯をいじって文句を言っている。

「うへぇ、圏外?どんだけー」

二人はそれに苦笑して。

「ほら、そんなの仕舞って。せっかくなんだし楽しみましょうよ」

「そうそう、お姉ちゃんいつも携帯見てばっかだよ?」

二人の言葉に、千代子は唇を軽く尖らせた。

「むぅ、全く……仕方ないわねぇ。付き合ったげるわよ」

そういって携帯をしまい込むと、花奈の手を握った。

「ほら、行くならさっさと行くわよ!!」

そう言って歩き出す彼女に、二人は笑って追随する。
3人で笑いあう、なんだか久しぶりだと彼女は思った。



彼女、花澤ゆうきの夫が病で倒れてからすでに数年が立っていた。
幼い子を二人抱えた状態で、彼女は生きて行くためにせわしなく働かなければならなかった。
昼もよるのもない生活が続き、時には愛する我が子を恨んだことすらある。
けれど、千代子も花奈も彼女にとってかけがえのない娘であったのだ。
生意気な口を聞くしすぐに泣くけれど、かけがえのない、可愛いかわいい娘であった。
そして、自慢の娘たちでもある。
だから彼女は頑張れた。
けれど彼女が頑張るほど、家族での触れ合いの時間は減っていく。
もう、ここ一月程子供たちと顔を合わせて食事をとっていないのではないか。
子供たちは、心配ないというけれど。
子供たちと遊べる時間を取れないことが、なんとも辛かったのだ。
だから、ようやくとれたたまの休みに子供たちを連れだした。
どこへ行こうとも決めていなかったのだが、都合のいいことに近くで縁日をやっていたのだ。
これ幸いとばかりに、彼女たちはそこへ足を向けた。
普段訪れることのない古びた神社ではあったが、その縁日は驚くほどに規模が大きいものだった。
入り口のところで浴衣の貸し出しまでしてくれるというのは、他には見られないものだ。
浴衣を着せてもらった花奈は、大喜びしている。

「千代子も借りればよかったのに」

彼女も浴衣を借りて袖を通しているのだが、それは今までに見たことがないほど見事なもので、借り物だとわかっていてもついつい浮かれてしまう。
千代子は、なんかださいと言って着なかったのだが。

「人間から作った着物って、こんなにキレイになるのねぇ」

貸浴衣屋さんが目の前で披露してくれた浴衣の製作過程。
彼女たちと同じ年頃だろう母娘がみるみる浴衣に変わっていくのは、なんとも不思議で面白い光景だった。
よくよく見れば、彼女たちの面影がどことなく残っているような。
そんなことを考えていると、先頭を行く花奈がとある出店の前で足を止めた。

「お母さんこれ食べたい!!」

香ばしい匂いを漂わせているのは、せんべいの出店だ。
ソースたっぷりの大きめのせんべいを、客の目の前で焼きあげてくれる。

「あら、美味しそうねぇ」

確かに、なんとも美味しそうである。

「すいません、3枚もらえます?」

「アイヨ、3枚ダネ!!」

注文に、店主はすぐにも頷いて彼女たちの後ろに並んでいた3人組目掛けて左手のソースをぶしゃとぶっかけた。
全身ソースまみれになった少女たちは、てくてくと鉄板の前まで歩いてくるとその上にひょいと飛び乗っていく。

「オイシイノガデキルヨ!!」

それを、店主は大きな右手でバシンバシンと叩いて潰していった。
鉄板の上には香ばしい匂いを漂わせるせんべいが3つ、いい感じに焼けている。

「楽しみだね」

家族さんにでわくわくと待っていると。

「デキタヨ」

あっという間に焼きあがった3つのせんべいが出てきた。
どれもこれも大きめでアツアツだ。
一口かじれば、それだけで旨みが口中に広がった。

「おいしいじゃん」

難色を示していた千代子も、意外そうにポツリとそう漏らすのだった。

せんべいを綺麗に平らげた一行は、いろいろな出店に寄り道しながら縁日を回っていく。
綿あめを食べ、型抜きで遊び、射的を眺めた。
皆ではしゃぎ、皆で盛り上がる。
最後の方には千代子も積極的に祭りを楽しんでいて、面白そうな屋台を見つけるなり大はしゃぎして花奈と一緒に向かっていっていた。

「うん、来てよかったな」

二人の笑顔を久し振りに見ることができた気がして。
二人を後ろから眺めながら、ゆうきは一人うなずいていた。
これでまた、明日からも頑張れる。
そう思ったのだった。
そんな時だ。

「こまったなぁ」

そんな声が聞こえたのは。
真横から聞こえたその声に、そちらを向いてみればいつの間にやら宮司の姿をした少女がひとり立っていた。
あいくるしいその姿に庇護欲を掻き立てられ、彼女はつい声をかけてしまう。

「どうしたの?」

突然声をかけられて驚いたような表情を少し見せたが、少し離すと落ち着いて答えてくれた。

「実は、チョコバナナを食べたいの」

そう言いながら、二人が背にしている出店を指さした。
明かりがついていなくて気がつかなかったがそれは確かにチョコバナナの出店だったのだ。
しかし、明かりがついておらず店員もいない。

「うーん、店員さんいないみたいねぇ」

彼女の言葉に、少女は残念そうに頷いた。

「そうなの」

そして、遊んでいる千代子と花奈を眺めて。

「チョコも、バナナも揃っているのに。店員さんがいないの」

「材料は揃っているのか……だったら、すぐに戻ってくるんじゃない?」

少女は首を横にふった。

「まだいないから無理」

そして、彼女の方を見て。

「ねえ、チョコバナナ屋さんにならない?」

そんなのダメよ、怒られちゃうわ。
そう、言おうと思ったはずだ。
けれど、言葉を紡ぐはずの口は動こうとせず思い通りの言葉を出すことは出来なかった。
いや、それだけではない。
全身が言うことを効かなくなってしまったようで、彼女の体はピクリとも動かなくなってしまったのだ。

「ううん、チョコバナナ屋さんになってね」

少女は笑って、手に持ったおはらい棒をこちらに向けて振るった。

光も音もない、けれど変化は劇的だった。
彼女の下半身が溶けるように一本になり、ずんずんと太くなって有機的なカーブを描く。
甘い香りが漂い始めて、一体化した下半身は鮮やかな黄色に姿を変えた。
それはどう見ても、下半身まるまるの大きさを持つバナナだ。
両手も同じように、それぞれが一本の大きなバナナに変わっていく。
そうかと思えば、彼女の胸周りは中身が空っぽの透明な器に変わった。
髪の毛も数本ごとにまとまってバナナのように姿を変えていく。
そして、彼女のポニーテールもまた大きな一本のバナナヘと姿を変える
周囲に芳醇な匂いを漂わせて、変化は止まった。
そう、彼女はチョコバナナ憑き神になってしまったのだ。

「うーん、いい匂い。楽しみだなぁ」

お社憑き神の言葉に、チョコバナナ憑き神は頷いた。
そして、遊んでいる娘のもとへ向かうと。
ぴょんと飛び上がって下半身のバナナを大きく開き、その皮で花奈を閉じ込めてしまう。

「ふへ?」

目の前で突然起こった事態に、千代子は変な声を上げた。
チョコバナナ憑き神はそちらにも素早く向き直ってポニーテールのバナナをちぎって千代子に向かって投げる。
ポニーバナナはすぐに生えてきた。
空中でくるくると回りながら器用に皮を広げたバナナは、そのまますっぽりと千代子に覆いかぶさって閉じてしまう。
人一人分の大きなバナナが、目の前に出来上がった。
その表面には、驚いた表情の千代子が浮き出ている。
下半身のバナナの表面に体を浮き上がらせる花奈を撫でて、チョコバナナ憑き神はニッコリと微笑む。

「良カッタわね、花奈。ばなな好キダモンね」

「うん、バナナ大好きー」

その中では、花奈が姿を変えつつあった。
体が色を失っていき、グニグニと四肢が溶けるように形を変え一体化していく。
次第に動くことも、声を出すこともできなくなりながら彼女の体は柔らかくなっていった。
完全に人バナナとなってしまった花奈を皮の上から優しく撫でると、目の前にあるバナナを手に取る。
先ほどまで人間サイズだったバナナは片手で持てる程度の大きさになっていて、皮をむくとその中から茶色いチョコになった千代子が姿を現した。

「千代子モ、ちょこ、好キダッタモンネ」

うんうんと頷いた彼女は、それを頭からバリバリと砕いて食べてしまう。
そのたびに、彼女の胸の器にどろりととけた美味しそうなチョコレートがたまっていった。
完食する頃には、そこはいっぱいになっていて。

「オイシイちょこばななニナッテネ」

愛しい娘たちが美味しくなれるように祈りを込めて、彼女は胸のチョコを下半身のバナナの中へと流し込んでいく。
ドロリと皮の間を流れるチョコはバナナの上半分を余すところなくコーティングして固まった。

「イイ感ジ」

それを感じ取った彼女は、下半身を切り離す。
下半身はすぐに生えてきたが、目の前にはやはり等身大のバナナが残った。
それを手に持とうとすると、サイズはすぐにも持てるサイズに変わる。

「デキマシタ」

それをわくわくとした気分で待っていたお社憑き神に渡すと、お社憑き神は大いに喜んだ。
皮を器用に剥くと、中から可愛らしいいバナナが出てくる。
チョコレートで綺麗にコーティングされているバナナはとても美味しそうだ。

「可愛い!!」

そして、頭からぱくりと食べていく。
噛めば噛むほど甘みと香りが広がった。

「おいしい」

お社憑き神の言葉に、チョコバナナ憑き神は胸をはって答えた。

「自慢ノ娘達デスカラ」




チョコバナナ、食べたことないですね
美味しそうですけど

憑神縁日事変 7.5

憑神縁日事変 餃子


無骨で巨大な扉がある。
何者をも拒むような威圧感、鉄板で作られた扉はまさに壁と呼ぶにふさわしい威容を誇っていた。
誰が呼んだか鉄板会、鉄板料理の頂点をきわめんと欲す者たちの集う聖地である。
この扉は、そうそう開くことのない扉であった。
一年に数度開けば多い方であるほどだ。
だというのに、前回この扉が開いてからひと月もしない内に、再び扉が開こうとしていた。
異例のことである。

「鉄板王、お世話になったアル」

そこから出てきたのは、見目麗しい少女であったのだからまた驚きだ。
中華な雰囲気を醸し出す衣服をまとった彼女は、開いた扉に振り返って頭を下げた。
強すぎる逆光でその姿を詳しく見ることはできないが、光のなかに誰かが立っている。
鉄板王と呼ばれたその存在は、娘の言葉に頷いて、何かを彼女に差し出した。
受け取った彼女は、再び頭を深々と下げる。
そして、鈍い音を立てて扉が再び閉じようとした。
娘ははっとなって視線を上げると、締まり行く扉の向こうに声を投げかける。

「鉄板王、最後にお願いアル!!貴久子の、鉄半谷貴久子の居所を、教えてほしいアル!!」

言葉こそ発さなかったが、鉄板王は狭まる扉の中からとある方向を指さした。

「その先に、貴久子がいるアルネ!!」

答えることはなく、扉は閉まる。
だが、彼女は確信していた。
鉄板王、男か女か老人か若者か、果てはそもそも人間であるのかすら定かではない謎の人物。
宇宙人だの忍者だのという噂の絶えないその人物は、決して嘘はつかない。
語ることは真実で、示すものは事実なのだ。
つまり、その指の示す方向に、貴久子がいる。

「ふふ、待っているアル貴久子。私の、このチャオズーの究極餃子で。お前をけちょんけちょんにしてやるアル」

そう言うと、岡持ちをもって歩き出したのだった。

彼女の名はチャオズー、貴久子のライバルを自称する少女で専門は餃子。
彼女の両手が生み出す餃子の旨さは魔術的であるとまで言われる。
しかし彼女は、貴久子に勝つことは出来なかった。
ほとんど拮抗した実力を持っていながらも、先に卒業されてしまったのだ。
彼女の人生で、これほど悔しかったことはない。
栄光という名の線路の上を歩いていた彼女にとって、初めての敗北であったのだ。
だから、今度は勝つ。
この、研究に研究を重ねた末に創り上げた究極の餃子でもって。

そう言って道をゆく彼女を誘うように、花火がなった。

「なるほど、鉄板王はここを……」

そちらに呼ばれるままに向かえば、縁日が現れた。
賑やかで明るい縁日だ。
彼女は、そこに貴久子がいるのだと確信した。
用心深く出店の間を練り歩くと、彼女はついに見つける。
鉄板焼きの出店を、そしてそこで働く貴久子達3人の姿を。

「ついに見つけたアル貴久子!!あの時の屈辱を晴らしにきた!!」

店の前に仁王立ちした彼女は、大声を上げて貴久子を指さす。
ゆびさされた貴久子は、ん?と一瞬迷ったような表情を見せて。

「……ああ、チャオズーじゃないか」

思い出した、と言わんばかりに手を叩いて答えた。

「また新作餃子ができたのか?」

にこにこと笑いながら店から出てきた貴久子に、岡持ちをぶつけんばかりの勢いで見せつける。

「そうアル。これこそが、史上究極最強の餃子アル!!」

取り出したのは餃子一皿。
いかなる魔術をもってかその温かさはまるで今まさに焼きあがったかのごとくである。
昇り立つ匂いに、さすがの貴久子もつばを飲んだ。
箸を取り出し、一つを掴んで一口……

「うまい!!」

目を見開いて、溢れでるような一言。
それは間違いなく本音で。
貴久子は次々にそれを口に放り込んだ。

「ふ、ふふふふふふふぁーっははっはっはっはっはっはっは!!」

それを見たチャオズは高らかに笑い声を上げる。

「勝った、勝ったアル!!あの貴久子に……!!」

高らかに勝鬨をあげる彼女の横で餃子を平らげた貴久子は。

「すごい、こんな餃子初めて食べたよチャオズ!!」

と彼女の手をとって喜んだ。

「じゃあ、次は私たちの番だね」

勝ち誇った笑みを見せる彼女に、貴久子はそう言って微笑んだ。

「へ?」

と疑問を抱く間もない。
自らの出店に飛び込んだ貴久子は、いつの間にかその姿を大きく変えていた。
下半身は鉄板になっているし、上半身や手もいろいろとおかしい。
横に居た二人も鉄板の上に飛び乗って、その姿を大きく変えた。

「さあ、作るよ!!」

カンカンとヘラを叩き音を鳴らすと、踊るように料理が始まった。
近くにいた高校生と思わしき二人組を巻き込んで。
目を丸くする彼女の前で、今まで見たことがないほどに洗練された動きで料理が行われそして完成する。

「はい、できたよ」

差し出されたそれは、何ら変わらないお好み焼きと焼きそばに見えるのだが……
一口食べたチャオズは、飛び上がった。

「うーまーいーぞー!!」

そのまま空中で五六回回転して着地したほどにそれは美味しかったのだ。
何が究極の餃子だ、この料理を前にすれば足元にも届いていない、重い上がっていた自分が恥ずかしくなって、彼女は両手をついた。

「か。完敗アル……」

完膚無きまでに叩きのめされたと言っても過言ではないだろう。
そううなだれる彼女に、語りかける影があった。

「仕方ないよねー、やっぱり素材が違うんだもん」

見あげれば、宮司のような格好をした少女が彼女を見下ろしている。

「素材……?」

「そうだよー」

素材、それを大事にしない料理人などいない。
料理の根本を決める大切な部分なのだ。
究極の餃子は、手に入る限りの最高の材料を求めた。
しかし、それよりも上があるというのか。

「知っているアル!?」

少女に、彼女は飛びついた。

「もちろん」

「教えてほしい!!私は必ずそれを手に入れて、貴久子に勝ちたいアル!!」

少女は笑って頷いた。

「うん、私もおいしい餃子食べたい」

そして、手にした器具を彼女に向けて振るったのだ。

光も音もない、けれど変化は劇的だ。
まずは彼女の両手が変化を始める、左手は川を作るための伸ばし棒に、右手は素早く餃子を作るための型になった。
下半身は溶けるように形を変えると、四角い金属の箱のような形状になる。
手前は銀色の蓋のようになっていて、取っ手を引っ張って開けばその中は熱々の鉄板が棚のように並んでいた。
両耳が餃子に代わり、頭の上に動物の耳のようにちょこんと2つの餃子が乗っかった。
そう、彼女は餃子憑き神になってしまったのだ。

「さあ、餃子憑き神。最高の素材を使った究極の餃子を作って!!」

餃子憑き神は頷いた。
近くにいた母娘連れの母を伸ばし棒で押し倒し、そのまま薄く伸ばしていく。
綺麗な円状に薄くなり、餃子の皮となった母親を右手に噛ませると、そのまま近くで呆然としていた娘を皮をセットした右手でばくんと挟み込んだ。
大きさや質量なんて無視して右手は閉まる、そして次開いたとき、そこには何もなくなっていたのだ。
そうかと思うと、次第にいい匂いが漂い始める。
彼女の下半身から水蒸気がもやりとのぼり、そして扉が開いた。
そこにはところ狭しと並べられた餃子の姿がある。
どれもうまく焼けていて、それだけで食欲をそそられた。
皿に取り分けて、タレもつけて、差し出された餃子を、お社憑き神と鉄板焼き憑き神たちが囲んだ。

「サア、召シ上ガレある」

生唾を飲み込んで、一口。

「うーまーいーぞー!!」

その一口でそう叫んでお社憑き神は周囲に魔力をまき散らした。
縁日で遊んでいた周囲の者たちが提灯憑き神や太鼓、笛憑き神に姿を変える。

「あ、ついやっちゃった。美味しすぎて」

お社憑き神のその言葉に、鉄板焼き憑き神たちも頷く。

「うん、すごいおいしい。私たちもうかうかしていられないね」

そんな彼女たちを、餃子憑き神は指さした。

「勝負ハ、コレカラある!!」

かくして縁日に、なかなか見られない餃子出店が誕生したのだった。




餃子大好きです。
屋台なら見かけたこと有るんですけどね。
おいしい餃子食べたい。
プロフィール

ヤドカリ

Author:ヤドカリ
基本的に要らんことをつらつらと書いてます
エロとか変脳とか悪堕ちとか

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